ジェットコースターと後日談

掌編小説

私は彼女の動画配信に出会ってからというもの、それまでの人生でぶっちぎりで一番のジェットコースターに乗ったかのような日々を過ごしていた。ある時、ついに我慢の限界を超えて、私はカウンセリングを受けることにした。

「彼女は私に興味を持つような素振りを匂わせたかと思えば、次の日には私など何でもないというような扱いを繰り返すのです。初めは私の投稿コメントを比較的たくさん読んでくれていたのです。そうかと思えば次の日には全く無視、またある日はなぜか私のSNSの投稿に時間を合わせて投稿する。人を舐めているとしか思えません。」私は堰切るように話し始めた。

「彼女とあなたはそもそもどういう関係なのですか?」

「動画配信者とそのファンというだけですよ。それ以上でもそれ以下でもない。それなのになぜか私にだけ扱いがぞんざいなのです。オフ会で花束を喜んで受け取ってくれたり、自ら写真を一緒に撮ってくれたかと思えば、話しかければ無視です。」

「その理由を聞いてみましたか?」

「それとなく、しかし率直に聞きました。私、あなたに嫌われていませんか?とね。そしたら、何かあったの?ですよ。はあ?と言いたかったのですが、その場ではそれ以上追及できませんでした。」

「まあ、女心と秋の空とも言いますからね。しかし、あなたはそれが耐えられなかったのですね。」

「別に好かれたいとか、嫌われたくないとか、そういうことが我慢できないわけではないのです。ただ、日によって態度が180度違う。なぜ私だけこのような扱いを受けているのか。まったく心当たりがありません。別に彼女に執拗に迫ったわけでもありません。一回だけ手紙を送ったことはありますが、それもただファンとしてですよ。」

「そうですか。しかし原因はおそらく、それかもしれませんね。どのような手紙を送ったのですか?」

「えっ。」私はキョトンとした。

「おそらく、あなたとの距離感を測りかねていたのですよ。彼女はおそらく、人気の配信者なのでしょう?」

「ええ、ですが、手紙といっても、そんな熱情あふれる愛を込めたラブレターなどを送ったわけではありません。ただ、彼女の配信を見て、元気づけられました。好きです。これからも応援してますという手紙しか送っていません。」

「そうですか。」カウンセラーは深くため息をついた。

「どうしたのですか?」

「悪いことは言いません。彼女とは距離を縮めない方がいい。一番はもう見ないことですが、少なくとも距離をもっと遠く取ったほうがいい。」

「いったい、何が問題だったのでしょうか?」私は納得がいかなかった。

「それですよ。今までの話から推察するに、あなた自身が原因を理解できないうちは、見ないことが一番です。それが嫌なら、少なくとも距離を遠く取るべきです。」

「では、やはり私は嫌われているのですね。」今度は私がため息をついた。

「あなたのために言いますが、そう思っていたほうが心のダメージはより少なく済むかもしれません。これは実はもっと悪いとか、悪くないという話ではないのです。彼女がどうしてあなたとの距離感を測りかねていたのか。また、どうして避けられるようになったのかを、相手の立場に立って、よく考えることです。」

私は絶望した。そんな私の様子を見ていたカウンセラーは同情というよりも、どこか呆れかえっているようだった。

「今日はここまでにしましょう。こんな日は美味しいものでも食べて、風呂にでも入って気分さっぱりして、寝るがよろしいでしょう。」

私は礼を言って、うつむきながら部屋を出た。心は不思議と穏やかだった。少なくとも、ジェットコースターからは降りることができた気がした。

数日を経て、私は再びカウンセラーのもとを訪れた。新たな不満を携えて。

「私の友人はこう言うのです。お前は普段から被害者意識が強すぎる。一方的だと。一方的云々を言うならば、私からすれば、相手の方が、一方的に理由も明かさずに態度をころころと変えているようにしか見えません。被害者意識?私が?私は別に害を加えた加えられたなどという次元でものを語っているわけではありません。しかし、そのように受け取る奴もいるのは確かです。なぜそのように見えるのでしょうか?」私は再び堰切るように話し始めた。

「被害者意識といわれることを気にしているのですね。」

「はい。」

「それはおそらく、あなたが非常に繊細だからです。他の人が気にしないようなことでも気にして、傷ついてしまうからです。そのことで傷ついた、とあなたが表明すると、相手からすれば、意図せず害を与えてしまった、という加害者意識を抱えてしまうことになるからでしょう。それが相手にとって我慢ならないから、あなたを被害者意識の強い人として断じてしまうのです。」

「では、私が悪いのですか?」

「これは難しい問題です。まず最初に、あなたはどうしたいですか?」

「どうしたいとは?」

「この問題に取り組むにはまず最初に、あなた自身の構えを見つめる必要があるということです。あなたは、配信者の方に限らず、他の人とどのような関係を築きたいですか?」

「そりゃ、どんな形であれ、良い関係を築きたいですよ。」

「良い関係を築くには、何が必要だと思いますか?」

「それは、相手の立場にたってものを見ようとする、とか?いや、でも……。」

「なにか気になりますか?」

「相手の立場にたってものを見るとは、どういうことなのでしょう?」

「相手の立場にたって考えるということは、少なくとも、本当に相手の立場にたつわけではありません。それは意識を自分の内に向けるのではなくて、外へ、相手に向けようとする、ということです。しかし、あなたのように繊細な方はこれが難しいこともあります。なぜなら、おそらく相手に意識を向けようとしても、自分の内が一杯になって、そちらにどうしても意識が傾くからです。そのような経験はありませんか?」

「ええ、あります。」

「おそらく、そうでしょう。少なくとも、この点を自覚しているということが大事です。あなたは、すでに対処しようとしている、その一歩を踏み出していると思います。ここまでたどり着かずに苦しみ続ける人も多いのです。」

「しかし、問題はここからではないでしょうか?どうすればいいのでしょう?」

「意識が内に向いてしまう、これを外に向けるにはどうすればいいのか?ということですね。」

「はい。」

「意識が内に向いてしまう、なぜそうなってしまうのか。結果的にどうなることが多いですか?」

「傷つくことが多いです。もしくは傷を避けようとします。」

「それはなぜでしょうか?」

「おそらく、完璧主義だからでしょうか。あらゆる失敗を避けたいと思ってしまいます。」

「そして傷を避けることに意識が向いてしまうのですね。」

「はい。あっ。」

「どうされましたか。」

「つまり、傷を避けようとする言動が、相手に傷つけられまいとする言動が、相手に加害者意識を植え付けようとしていると捉えられるということでしょうか?」

「もしそうだとすれば、そのように受け取る方もいるかもしれません。傷がつく、つかないということよりも、何を大事にしようとするかに意識を向けてみる、ということが、私からの提案です。」

「それは自分よりも相手?いや、相手よりもその場を大事にするということでしょうか。」

「そこに正解を見つけるのは、難しいことです。しかし、それを探る、探り続けるということが、対人関係において大事な視点だと私は思います。今日はここまでにしましょう。」

私は礼を言って部屋を出た。今回はうつむかずに部屋を出られた。当面はそれだけで満足だ。そう思うことにした。

コメント