僕は三日前、某文章共有型のSNSを始めた。この三日間で九つの記事を投稿し、全体のビューも千を超えた。この三日間、ただ思いつくままに作品を書き、書いては投稿していた。出だしとして、まずまずの手ごたえを得ていた。この調子で毎日投稿していくつもりだった。
そのSNSでは主に掌編小説を投稿している。随筆も投稿したが、まだ一つだけだ。今日は随筆でも投稿しようかと以前書いた文章を漁っていた。
今日はSNSを始めてから四日目、今の時刻は午後22時。日付が変わるまでにあと二時間しかない。今日はまだ投稿していない。まだ投稿するべき作品もなく、ネタの用意もない。
ネタがないことを正直に書こうか。僕はメモ帳を開いてタイピングし始めた。
「今日はサボります。」
いや、これではダメだ。三日坊主になってしまう。そもそも、毎日投稿しますというのも自分の個人的な誓いであって、ネットの住民からすれば「えっ?毎日投稿するはずだったの?」という話だ。
僕は観念して一服しようと外に出た。家の前の駐車場で煙草に火をつけると、途端に風が吹いた。自宅前に接している道は坂になっていて、下から風が物凄い勢いで吹きつけていた。
すると、坂の下のほうからサラリーマン風のおじさんが上ってきた。僕は煙草をふかしたまま、ボーっとおじさんを眺めていた。おじさんは風に晒されながら、そのまま坂を上がっていった。いつもこの時間帯に見かけるおじさんだった。
「お兄さん、お困りですか?よかったら、私がネタを差し上げますよ。」
僕はそのままボーっと煙草をふかしていた。そんなことを言うような、面白い人が上がって来ないだろうか。坂の下を凝視してみた。何も、誰も上がって来なかった。
諦めて自室に戻り、椅子の上に崩れ落ちた。腰掛けたまま、ぼんやりと坂を上っていったおじさんを思い返していた。たぶん仕事からの帰宅途中なのだろう。あのおじさんは、いつ行ってもこの時間帯には坂を上っていた。
僕は意を決してメモ帳を開き、タイピングし始めた。
「今日はサボります。」
投稿を終えると、次作のネタがふと浮かんできた。僕は深くため息をつくと、そのまま眠りこんだ。

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