何度も何度も試してみても、その扉が開くことはなかった。彼は扉を開けるためにあらゆることを試した。押してもダメ。引いてもダメ。横引きかと思ったが、それも違う。鍵穴がないため、鍵がかかっていたとしても、解錠することもできなければ、そもそもそのための技術や道具も持ち合わせていない。他に出られる場所はないか、部屋のあらゆるところを探したが、窓はなく、扉の下に小さな隙間があるのみだった。二畳くらいの部屋にあるのは一組の机と椅子だけで、わずかばかりの照明が天井高く点いていた。
気がついたら、彼はこの部屋に閉じ込められていた。いったい誰が、何の目的でここに閉じ込めたのか、皆目見当もつかない。閉じ込められてから、何日たったのかもわからない。目が覚めると、必ず食事が用意されていた。はじめのうちは空腹のあまり、食べることにしていた。食事が必ず寝ている間に用意されていることがわかると、彼は寝なかったり、寝たふりをしたりして、給仕する者を待ち受けた。いずれも無駄な試みだった。いつの間にか眠りについてしまい、食事は机の上に用意されていた。
今度は食べないことにしてみた。餓死するまで我慢することにしたのだ。彼の精神状態は、隔離された空間で極限まで追い詰められていた。しかし、この試みも成功しなかった。どうやら寝ている間に点滴をされたらしい。ただ空腹感に苛まれるのみで、彼は結局、食べることにした。
ある時、どこからか突然、風が流れてくるのを感じた。かなり微細な流れだったが、彼の感覚はあらゆる面で鋭敏になっていた。閉鎖された空間で、そこから脱出するためにわずかな手掛かりも見逃さないようにと、そうなってしまったのだろう。風はどうやら、扉の下の隙間から流れているらしい。ふと、その隙間の大きさが気になった。一般的な扉下の隙間より明らかに大きい。無論、そのことには気づいていたし、その隙間から向こう側の様子を窺おうともしたが、何も見えなかった。彼が気になったのは、人の指がちょうど入るくらいの大きさだということに気づいたからである。
試しに指を扉の下にひっかけてみた。その瞬間、彼はドキッとした。扉がわずかに持ち上がったのである。思い切ってエイッと扉を上に持ち上げた。すると、扉はガラガラと音を立てて持ち上がり、ついに開いたのだ。
「やっと開いたな。」
彼は一言だけつぶやくと、体から力が抜けていくのを感じた。限界だった。扉は想像以上に重く、とにかく開けたい一心で、火事場の馬鹿力のような力で持ち上げていたようだ。そのまま扉に押しつぶされ、彼はこと切れた。

コメント