幻想・不思議

彼は扉を押し続けた。四方を壁に囲まれたその部屋で、ただ壁の一部がほかと異なるからといって、そもそもそれが扉だという保証はない。鍵穴はなく、ドアノブやそれに類するものも見当たらない。押してもびくともしなければ、指を引っかけることができないため、手前にも横にも引くことができない。

いつの間にか、そこに閉じ込められていた。窓はなく、天井高く照明が僅かに点いていた。食事は彼が寝ている間に運ばれているようだった。目覚めると必ず、机の上に用意されていた。給仕の時を狙って脱出を試みようと、寝たふりをしても無駄だった。結局は耐え切れずに寝てしまい、食事がいつものように用意されるだけだった。

ただ脱出したい一心で、ひたすら扉を押していた。僅かな水滴でも穿ち続ければ、岩に穴を開けるだろう。そのような精神で押し続けた。

彼はふと思った。これは、本当に扉なのだろうか。境界線のように明確な隙間があるため、確かに壁のほかの部分と分離しているように見える。だが、もしこの隙間が表層的で、奥のほうでは壁とつながっていたら?あらためて冷静に、壁を見渡してみた。

食事は給仕されている。だから、壁のどこかが開くはずである。どこかが開くということは、壁のほかの部分とは分離していなければならない。分離しているということは、隙間があるはずだ。もしくは天井から?しかし天井は一様に茶色で、どこにも隙間がないように思えた。床も同様だった。

壁だけが不自然にレンガ調だった。最初はたんなる模様だろうと思っていた。だが、これがもし隙間を隠すための模様だとしたら?彼は壁を丹念に調べ始めた。

すると彼の思った通り、壁の下の隅のほうに、別の隙間があった。その隙間に囲まれた壁は、開けば大人一人くらいがくぐれるくらいの大きさだった。彼はその部分をゆっくりと押してみた。

その瞬間、周りが突然、とてつもなく明るくなった。反射的に目を閉じると、刹那の灼熱に晒された。その後、彼は何かを感じることも、考えることもなくなった。

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