早朝の一瞬

人間関係・恋愛

私が彼らを見かけたのは偶然だった。ある日の早朝、変わらぬ日常に退屈し、いつもとは異なる道をジョギングすることにした。私は海岸沿いを走っていた。太陽は水平線の向こうから、まだその明かりを僅かに滲ませているにすぎず、辺りはまだほんのりと暗かった。その日は休日だったので、帰ったら酒を一杯飲んでから、また寝るつもりだった。それを楽しみに走っていただけだったのに……。

突然、爆音が聞こえてきた。私は驚いて走るのを止めた。だんだんと近づいてくる。海岸沿いには国道が走っており、その二つを分かつように林の一帯が植林されていた。どうやら爆音は国道を突進しているようだ。あまりにも耳をつんざく荒々しさだったので、私は音が過ぎ去るまでその場に留まってやり過ごそうと思った。爆音はさらに近づいてきた。私は嫌な予感がした。

私の予感は的中した。だが時はすでに遅し。暴走族の一団が林の間から私の前に現れた。そこには国道と海岸をつなぐ道が隠れていた。

十五人くらいの若者達が皆、それぞれオートバイに跨っていた。十代後半から二十代前半くらいだろうか。私は車やバイクの種類には疎かったので、どれが何のバイクだかわからなかった。その中で先頭にいた、一際目立つバイクに乗った若者がバイクを降りてこちらに来た。
「おっさん。こんな早朝に一人で散歩か?」
どうやら、彼が暴走族のリーダーらしい。乗っているバイクは派手な色ではなく、黒々と光っていた。私は唖然として彼らを見ていた。このような集団がまだ現存していたとは……。
するとその若者は大袈裟な口調で続けた。
「走らせるのは常に一瞬だ。バイクもパシリも。俺達は青い。だからその一瞬を積み重ねる。あんたはどうする?」
私は茫然としていたが、我に返って聞き返した。
「どうするって?」
「その足を自分で走らせるのか。それともパシられるのか。」
その若者の目は大袈裟な口調に反して鋭かった。
「すまん。走ることにするよ。」私は心の中でドン引きしながらジョギングを続けた。その場を急いで離れながらも、その若者の言葉が耳から離れなかった。

――その足を自分で走らせるのか。それともパシられるのか。――

私はジョギングを中断し、家に戻ることにした。帰宅すると早速、荷物をまとめ始めた。それは彼の言葉に感化されたからなのか、それとも彼らからとにかく離れたいからなのか。いや、もしかしたら、変わらぬ日常からかもしれない。私はそれまで持っていた大半の荷物を捨てて、最小限の荷物で家を出た。自らの足を走らせて。

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