お断りの件

人間関係・恋愛

「お断りの件、しかと承った。」

彼はある女性に想いを寄せていた。あれは彼がまだ大学に在学中の頃だった。高校卒業後、彼は海外に留学していた。その留学先で彼は心身を患い、最後には単位不足で中退することになった。中退後に帰国して数年間療養した後、ある大学に編入学したのだ。その大学には二十代後半の頃に入学した。先の見えぬ将来に不安を覚えながら、彼は勉学に励んでいるはずだった。しかし留学先で患った心身は、完全には癒えていなかったようだ。心身の回復は思うように進まなかった。なかなか卒業の目処が立たない中、彼はあるゲームに逃げ込むように熱中した。彼が想いを寄せた女性は、そのゲームの配信者だった。彼女はプロゲーマーであり、その業界では人気者だった。彼女の配信に出会ってから彼の人生は一変した。大学を卒業し、アルバイトを始め、自動車の免許を取得することができるまでに回復した。その女性はたんに彼の憧れではなく、心の支えであった。彼女はそのゲームの実力者であり、動画配信を通して普及活動にも励んでいた。その業界では人気があったが、一方でアンチも多かった。容姿端麗であり、外見に派手さがあるだけでなく、少々我の強いというか、自己主張の強いところがあった。そのためか、彼女の普及活動には賛否両論があった。彼はあまり彼女のアンチには興味がなかった。これは彼自身による観察と考察であるが、彼女の自己主張の強さはこだわりの強さであり、また自信の無さの表れでもあったのだろう。彼女は基本的に真面目というか、生真面目であった。しかし彼女の外見の派手さと我の強さの組み合わせは、その普及活動において多くの誤解を伴っていた。もちろん、その真偽を彼が知っていたわけではないだろうが、彼にとってはどうでもよいことだった。彼女は美しかった。それは容姿が美しいのはさることながら、彼女の物事への向き合い方、その真剣さや、少々気まぐれなところまで、彼にはとても心惹かれるものがあった。ゲーム内で強敵を捌きながら、視聴者にわかりやすく、かつ楽しく面白く解説するその姿に、彼はとても元気づけられていたのである。

ある日、彼は何を思ったのか、彼女にラブレターを書いて送った。書いてからもう三年以上は経っていた。もちろん、返信が来ることはないだろう。何を思っていたのか、彼は彼女の動画を見返しながら一人、思わず呟いていた。

「お断りの件、しかと承った。」

その口調に自身でも驚きながら、彼は眠りに落ちた。

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