風とともに

幻想・不思議

その日は強風が吹いていた。まともに立っていられない程の強さだった。空は分厚い雲で覆われて、今にも雨が降り出しそうだった。それにも関わらず、俺は一人、外へ散歩に出た。天気が悪いせいか、その日はなぜだかむしゃくしゃしていて、自暴自棄というか、そんな気分だったのだ。玄関のドアノブに手をかけると、ドアは風の勢いで吹き飛ぶように開いた。

俺は慌てて外へ出て、ドアを閉めようとした。自分自身も吹き飛びそうになりながら、なんとか扉を閉めた。その刹那の瞬間、扉を閉めたことでホッとしてしまった。強風はその瞬間を見逃さなかった。俺は風に吹き飛ばされた。

なんとか地面に打ちつけられまいと、脚を前に出した。そして風の勢いから逃れるように地面を蹴った。

アン、ドゥ、トロワ!!

何を思ったのか、開き直ったのか。俺はフランス語でバレエさながら、ステップを踏み出した。バレエなどしたこともないが、なぜだか前にもこんなことがあった気がする。デジャヴか。これもフランス語だ。フランスがなんだというのだろう。

どのくらい来たのだろうか。辺りを見回すとそこは公園だった。デジャヴ感が増す一方で、俺は首を傾げた。

その途端、風が顔を殴るかの如く、俺の横っ面を叩いた。横道に逸れると反対側の遠くから自転車に乗った女性がやってきた。つい期待してしまい、脚を見ようとした。これもまた、前にあった気がする。俺の期待は高まった。そのとき……。勝ち誇ったような顔のおばさんがこちらを見つめていた。遂に俺は脚を挫いて、地面に叩きつけられた。

自転車は通り過ぎていった。俺は脚を擦りむいていた。傷口についた泥を取ろうとすると、泥は風に吹き飛ばされた。冷たい風が傷口に心地よく当たった。しばらくの間、ただ風の気まぐれさを感じていた。

俺はゆっくり立ち上がると、再び歩き出した。今度は風に吹かれるままではなく、風とともに。

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