あのような体験は二度とないだろう。あれはアルバイトからの帰宅途中のことだった。私は駅から家までバスに乗って帰宅するのが常だった。その日も同じようにバスに乗ると、乗客は私を含めて三人だけだった。いつもより極端に少ない。そんな日もあるのだろうとぼんやり思いながら、自分の降りる停留所までスマホのゲームをすることにした。
するとバスはあるバス停で停車した。そこには誰もいなかった。誰かが降りるのだろうと、私はボーっとバスが発車するのを待っていた。すると運転者が叫ぶように言った。
「お客さん。降りるんじゃないの?」
ふと気が付くと、私以外の乗客は全員、すでにいなかった。前のバス停までで全員降りたのだろうか。しかし、そこは私の降りる停留所ではないし、降車ボタンを押したわけでもない。
「いえ、私じゃないです。ここじゃありません。」私は戸惑いながら言った。
「でもお客さんしかいないし、あなたがボタンを押したんじゃないの?」運転手は若干苛立っていた。
「いえ、私は押していません。」私は主張し続けた。
運転手はため息をつくと扉を閉め、またバスを走らせようとした。
「ねえ、なんで……降りないの?」
私は驚いて声のする方を向いた。すると窓の外に一人、誰もいなかったはずのバス停に立っていた。私はその顔を見て叫んだ。立っていたのは、運転手だった。

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